回る計画の条件を理解する
第0章・話18|はじめに
到達目標:「完璧な計画」と「回る計画」の違いを理解し、完璧主義の罠から抜け出す。 今日やること:自社の計画・仕組みの中で「完璧を求めて止まっているもの」を1つ特定する。 必要ツール:紙とペン、または手元のメモアプリ。
「もっと精度を上げてから、動き出そう。」
この思考が、スタートアップを殺す。
完璧な13週CFを作ろうとして、3週間かけて設計する。完璧な月次レビューのフォーマットを作ろうとして、1ヶ月かけて調べる。その間、資金は減り続け、気づいたときには手遅れになっている。
完璧主義は、大企業では武器になる。でもスタートアップでは、毒になる。
なぜか。
スタートアップには、完璧を待つ時間がないからだ。
今回は、「完璧な計画」と「回る計画」の違いを明確にする。そして、どの程度の完成度で動き始めるべきかの判断基準を届ける。
完璧主義がスタートアップを止める3つの理由
理由1:完璧の基準が曖昧だから
「完璧な13週CF」とは、何か。
入金予定が100%確定していること? すべての出金が1円単位で正確に記録されていること? 過去1年分のデータが揃っていること?
この基準を満たそうとすると、永遠に完成しない。
なぜなら、入金予定は100%確定しない。出金は毎日変動する。過去データは、創業直後には存在しない。
完璧の基準が曖昧だから、「まだ足りない」という感覚が消えない。そして行動が止まる。
理由2:完璧を求めている間に現実が変わるから
1ヶ月かけて完璧な事業計画を作った。でもその1ヶ月の間に、大口顧客候補が契約を保留した。広告のCPAが2倍に跳ね上がった。競合が新サービスを発表した。
完成した計画は、作り始めた時点の前提に基づいている。1ヶ月後には、その前提が崩れている。
完璧な計画を作る速度より、現実が変わる速度の方が速い。 これがスタートアップの本質だ。
理由3:完璧な計画を作る過程で、実行の時間が失われるから
13週CFを3週間かけて完璧に作る。その3週間で、本来なら顧客3社に営業できた。プロダクトの改善を2回回せた。広告のABテストを5パターン実行できた。
完璧な計画は完成したが、売上はゼロのまま。ランウェイは3週間分減った。
計画の精度を上げることより、実行の回数を増やすことの方が、はるかに価値が高い。
「回る計画」の3つの条件
では、「回る計画」とは何か。
完璧ではないが、動かし続けられる計画。不完全だが、毎週改善できる計画。それが「回る計画」だ。
回る計画には、3つの条件がある。
条件1:今日作れること
回る計画の第一条件は、今日作れることだ。
13週CFなら、今日2時間で器を作れる。列見出しに13週分のラベルを入れる。行見出しに「入金・出金・残高」を入れる。今週の残高を1つだけ入力する。
これで器は完成だ。完璧ではない。でも今日から使える。
明日、来週の入金予定を1つ追加する。再来週、固定費の出金を追加する。毎日少しずつ、精度が上がっていく。
1ヶ月後に完璧な計画を作るより、今日60%の計画を作って毎週改善する方が、はるかに速い。
条件2:毎週更新できること
回る計画の第二条件は、毎週更新できることだ。
更新に3時間かかる計画は、回らない。忙しい週にスキップされ、2週目もスキップされ、気づけば1ヶ月更新されていない。
更新に15分で済む計画は、回る。月曜日の朝、コーヒーを飲みながら更新できる。忙しい週でも、15分なら確保できる。
13週CFの更新は、慣れれば10分で終わる。先週の実績を反映させ、新しい週を1列追加し、入金・出金を確認する。それだけだ。
更新コストが低い計画だけが、習慣になる。
条件3:意思決定に使えること
回る計画の第三条件は、意思決定に使えることだ。
どんなに精緻な計画でも、意思決定に使われなければ意味がない。
13週CFが意思決定に使えるのは、「3週目の残高が50万円を切る。だから2週目に広告費を削る」という判断ができるからだ。
月次レビューが意思決定に使えるのは、「今月の粗利率が計画より5%低い。だから来月は仕入れ先を見直す」という判断ができるからだ。
意思決定に使えない計画は、ただの資料だ。作ることが目的化している。
計画の価値は、精度ではなく、意思決定の速度で測る。
「60%で動き出す」ルール
では、どの程度の完成度で動き始めるべきか。
私が推奨するのは、60%ルールだ。
60%の完成度で動き始める。動かしながら、毎週5%ずつ改善する。12週後には、120%の精度になっている。
逆に、100%を目指して動き出さないと、12週経っても0%のままだ。
60%の13週CF
- 列見出しに13週分のラベルがある
- 今週の残高が1つ入力されている
- 来週以降の入金予定が、わかる範囲で1〜2個入力されている
- 固定費の出金が、主要なもの(家賃・人件費)だけ入力されている
これで60%だ。これで動き出せる。
60%の月次レビュー
- 5つの議題が書いてある
- 1つ目の議題(CF予実差異)だけ、数字が埋まっている
- 残り4つの議題は、項目名だけ書いてある
これで60%だ。これで1回目の月次レビューができる。
60%のリスク登録票
- リスク名の列がある
- 発生確率・影響度・重要度の列がある
- リスクが1つだけ登録されている
これで60%だ。これで使い始められる。
60%で使い始めた仕組みは、3ヶ月後には90%になっている。100%を目指して使わなかった仕組みは、3ヶ月後も0%のままだ。
私が飲食で失敗した理由も、完璧主義だった
話4で書いたが、私が飲食2店舗で失敗した大きな理由の一つは、完璧主義だった。
「いつか、完璧な資金繰り表を作ろう」と思っていた。どのフォーマットがいいか。どの項目を入れるか。どこまで細かく管理するか。
調べているうちに、1ヶ月が過ぎた。「もう少し調べてから」と思っているうちに、3ヶ月が過ぎた。
結局、資金繰り表を作らないまま、資金が尽きた。
もし創業1週目に、60%の13週CFを作っていたら、結果は違ったかもしれない。
来週の家賃13万円、再来週の食材仕入れ50万円、3週目の人件費28万円。これだけでも入力していれば、「5週目に残高がゼロになる」という未来が見えた。
見えていれば、動けた。広告費を削る。仕入れを後ろ倒しにする。親族に追加で借りる。何か手を打てた。
でも完璧を求めて、何も作らなかった。だから何も見えなかった。
完璧主義は、行動を止める。行動が止まると、会社が止まる。
完璧主義から抜け出す3つの質問
自分が完璧主義に陥っていないか。3つの質問で診断できる。
質問1:「これを作り始めて、何日経ちましたか?」
13週CFを作り始めて、もう1週間経っている。月次レビューのフォーマットを調べ始めて、もう2週間経っている。
1つのタスクに1週間以上かかっているなら、完璧を求めすぎている。
今日、60%で完成させて、明日から使う。使いながら改善する。
質問2:「これは、今日の意思決定に使えますか?」
今作っている計画は、今日の意思決定に使えるか。使えないなら、何のために作っているのか。
意思決定に使えないなら、それは計画ではなく「作業」だ。作業のための作業になっている。
今日の意思決定に使えないものを、明日も使わない。
質問3:「これを作っている間に、何を実行できなかったですか?」
完璧な計画を作るために使った3週間で、何を実行できなかったか。
顧客への営業。プロダクトの改善。広告のテスト。採用面接。
計画を作る時間と、実行する時間は、トレードオフだ。 計画に3週間使えば、実行に使える時間が3週間減る。
「不完全でも回す」ことの価値
私が貿易事業でコロナ禍を乗り越えられたのは、「不完全でも回す」を実践したからだ。
13週CFは、最初の3ヶ月は穴だらけだった。入金予定の半分は「未確定」と書いてあった。出金も、「その他」という項目が全体の30%を占めていた。
でも、毎週更新した。
穴だらけでも、週次で更新していると、傾向が見えてくる。「その他」の出金が毎週10万円ずつ増えている。これは何だろう? 調べてみたら、広告費が自動課金されていた。
気づけたから、止められた。
もし「完璧な13週CFを作ってから使おう」と思っていたら、広告費の自動課金に気づかなかった。3ヶ月で120万円が消えていた。
不完全でも回す仕組みは、完璧だが使われない仕組みより、100倍強い。
今日やること(チェックリスト)
□ 自社の計画・仕組みの中で、
「完璧を求めて止まっているもの」を1つ特定した
□ そのタスクを「60%の完成度」で定義した
(何があれば60%と言えるか、を書き出した)
□ 60%版を、今日中に完成させた
(または明日までの期限を設定した)
3つ目が最も重要だ。「60%で完成」と決めた瞬間、行動が始まる。
次回(第0章・話19)では、「『次の一手』を常に持つ経営者と持たない経営者の違い」を解説する。次の一手を常に持っている経営者は、問題が起きても止まらない。次の一手を持たない経営者は、問題が起きると固まる。この差を生む思考習慣を明らかにする。
完璧な計画はいらない。回る計画があればいい。回る計画は、今日作れる。


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