第0章・話19|はじめに
到達目標:「次の一手」を持つ思考習慣を理解し、自社に実装する方法を知る。 今日やること:今週の「次の一手」を1つ決めて、カレンダーにブロックする。 必要ツール:紙とペン、カレンダーアプリ。
問題が起きたとき、2種類の経営者がいる。
固まる経営者と、動く経営者だ。
固まる経営者は、問題を目の前にして「どうしよう」と考え込む。選択肢を探し、比較し、悩む。その間、時間が過ぎ、状況は悪化する。
動く経営者は、問題を目の前にして即座に「次の一手」を決める。完璧ではないかもしれない。でも今日できる最善の一手を選び、実行する。
この差を生むのは、才能でも経験でもない。
「次の一手」を常に持つ習慣だ。
今回は、この習慣を作る方法を解説する。
「次の一手」とは何か
次の一手とは、今から7日以内に実行する具体的な行動だ。
曖昧な目標ではない。「売上を伸ばす」「資金繰りを改善する」は、次の一手ではない。
具体的な行動だ。「月曜日の午前10時に、A社に値上げ交渉の電話をする」「火曜日の午後3時に、銀行に融資相談のアポを取る」。これが次の一手だ。
次の一手には、3つの条件がある。
条件1:7日以内に実行できる
「3ヶ月後に新サービスをリリースする」は、次の一手ではない。遠すぎる。
「今週中に新サービスのLP(ランディングページ)の文章を書く」は、次の一手だ。7日以内に完了できる。
条件2:自分がコントロールできる
「顧客が契約してくれる」は、次の一手ではない。顧客の行動は、自分がコントロールできない。
「顧客に契約書のドラフトを送る」は、次の一手だ。自分がコントロールできる。
条件3:完了の定義が明確
「事業計画を考える」は、次の一手ではない。「考える」の完了条件が曖昧だ。
「事業計画のA4一枚サマリーを書いて、共同創業者に送る」は、次の一手だ。完了条件が明確だ。
次の一手を持つ経営者の思考プロセス
次の一手を常に持つ経営者は、どう考えているのか。
シーン1:大口顧客が契約を保留した
固まる経営者の思考: 「どうしよう。この顧客からの売上が今月の計画に入っている。これがなくなると、月末の資金繰りが厳しい。どうすれば契約してもらえるか。値下げすべきか。それとも別の顧客を探すべきか。」
→ 思考が堂々巡りして、行動が止まる。
動く経営者の思考: 「契約保留の理由を今日中に確認する。理由が価格なら、明日値下げ案を提示する。理由が機能不足なら、代替案として既存機能での先行導入を提案する。並行して、今週中に別の顧客候補2社に連絡する。」
→ 次の一手が3つ決まり、すぐに動き出す。
シーン2:13週CFで3週目の残高がマイナスになった
固まる経営者の思考: 「3週目に資金が足りない。どうしよう。調達すべきか。でも調達には時間がかかる。経費を削るべきか。でもどこを削ればいいかわからない。」
→ 不安が先行し、判断が遅れる。
動く経営者の思考: 「3週目までに50万円必要。選択肢は3つ。①B社への請求を前倒し交渉(明日電話)、②広告費を2週間停止(今日設定変更)、③JFCに相談予約(今日ウェブから申込)。①を最優先で実行。ダメなら②と③を並行。」
→ 選択肢が整理され、優先順位がつき、即座に動く。
シーン3:主要メンバーが退職を申し出た
固まる経営者の思考: 「この人がいなくなったら、プロダクト開発が止まる。引き止めるべきか。でも給与を上げる余裕はない。代わりの人を探すべきか。でもすぐには見つからない。」
→ パニックになり、何も決められない。
動く経営者の思考: 「退職理由を今日1on1で確認する。理由が給与なら、明日役員報酬を削って給与アップを提示する。理由がキャリアなら、引き止めず円満退職を優先し、並行して今週中に採用エージェント3社に連絡する。業務の引き継ぎ期間は最低1ヶ月確保する交渉をする。」
→ 次の一手が4つ決まり、優先順位がついている。
次の一手を持つための3つの習慣
次の一手を常に持つ経営者は、3つの習慣を持っている。
習慣1:問題を「選択肢」に変換する
問題が起きたとき、「どうしよう」ではなく「選択肢は何か」と問う。
例:大口顧客が契約を保留した → 選択肢:①保留理由を確認する、②値下げ提案をする、③別の顧客を探す、④契約条件を柔軟にする、⑤一旦諦めて次に進む
選択肢を5つ書き出す。5つあれば、そのうち1つは実行できる。
習慣2:選択肢に「期限」と「担当」をつける
選択肢を書き出すだけでは、次の一手にならない。
それぞれに「いつまでに」「誰が」をつける。
例:
- ①保留理由を確認する → 今日中、自分
- ②値下げ提案をする → 明日午前、自分
- ③別の顧客を探す → 今週中、営業担当
- ④契約条件を柔軟にする → 明後日まで、自分
- ⑤一旦諦めて次に進む → 判断は金曜日、自分
期限と担当がつくと、選択肢が「次の一手」になる。
習慣3:次の一手を「宣言」する
次の一手を決めたら、チームに宣言する。
「今日中に、保留理由を顧客に確認します。明日の朝礼で結果を報告します。」
宣言することで、自分にコミットメントが生まれる。そして周囲が「次に何をするか」を共有できる。
私が現在の4社を経営しているとき、毎朝チームSlackに「今日の次の一手」を投稿している。
「今日の次の一手:3社目の外注先に、10月の契約延長の確認電話をする(午前11時)」
この習慣が、チーム全体に「次の一手」を持つ文化を作る。
私がコロナ禍で「次の一手」を持ち続けた方法
話5で書いたが、コロナ禍で貿易事業の売上がゼロになったとき、私は毎日「次の一手」を決めていた。
2020年4月1日:国際物流が止まった
次の一手:
- 今日中に、仕入れ先に状況確認のメールを送る
- 明日、顧客に納期遅延の連絡をする
- 明後日、役員報酬をゼロにする判断をする
2020年4月5日:売上見込みがゼロになった
次の一手:
- 今日中に、ランウェイを再計算する
- 明日、大手宅配会社の求人に応募する
- 今週中に、中古車輸出という代替事業を調べる
2020年4月15日:就職が決まった
次の一手:
- 今日、役員報酬をゼロに設定する
- 明日、外注先に支払条件維持を伝える
- 来週、中古車輸出の初回取引を実行する
毎日、次の一手を決めた。決めたら、実行した。実行したら、また次の一手を決めた。
この繰り返しが、会社を生かし続けた。
もし「どうしよう」と固まっていたら、会社は終わっていた。次の一手を持ち続けたから、生き延びた。
「次の一手」を持たない経営者の3つの特徴
逆に、次の一手を持たない経営者には、3つの共通点がある。
特徴1:「考える」時間が長すぎる
問題が起きてから、1週間「考える」。どうすべきか、ベストな選択肢は何か、リスクはないか。
考えている間に、1週間が過ぎる。その間、何も動いていない。
次の一手を持つ経営者は、考える時間を30分に制限する。30分で選択肢を5つ出し、1つ選び、実行する。完璧ではないかもしれない。でも動く。
特徴2:「完璧な選択肢」を探す
ベストな選択肢を探し続ける。「もっといい方法があるはずだ」と調べ続ける。
完璧な選択肢は、存在しない。すべての選択肢にリスクがある。
次の一手を持つ経営者は、「今日できる最善の一手」を選ぶ。完璧ではないが、今日実行できる。実行すれば、次の情報が手に入る。その情報で、また次の一手を決める。
特徴3:「誰かが答えを教えてくれる」と待つ
メンターに相談する。投資家に聞く。友人に意見を求める。
相談は重要だ。でも、最終的に決めるのは自分だ。
相談した結果、答えが返ってくるまで1週間待つ。その間、何も動かない。これが致命的だ。
次の一手を持つ経営者は、相談しながらも「相談の返事が来る前に、今日できることを実行する」。
次の一手を「仕組み」にする
次の一手を常に持つには、それを「仕組み」にする必要がある。
仕組み1:毎週金曜日に「来週の次の一手」を決める
毎週金曜日の午後、30分を確保する。来週の次の一手を3つ決める。
- 月曜日の次の一手:○○
- 水曜日の次の一手:○○
- 金曜日の次の一手:○○
3つ決めたら、カレンダーに実行時間をブロックする。
仕組み2:月次レビューの最後に「来月の次の一手」を決める
月次レビューの5つ目の議題は「次月の資金繰り意思決定」だ。
ここで、来月の次の一手を必ず1つ決める。
例:
- 来月の次の一手:JFCに融資相談の予約を取る(期限:来月5日まで)
この一手を、次回の月次レビューで最初に確認する。実行されていなければ、なぜ実行されなかったかを振り返る。
仕組み3:朝イチで「今日の次の一手」を宣言する
毎朝、仕事を始める前に「今日の次の一手」を決める。
紙に書く。Slackに投稿する。手帳に記録する。
宣言することで、コミットメントが生まれる。
今日やること(チェックリスト)
□ 今週の「次の一手」を1つ決めた
□ その次の一手に「期限」と「担当」をつけた
□ 次の一手を実行する時間を、
カレンダーにブロックした
□ 毎週金曜日に「来週の次の一手を決める時間」を
カレンダーに固定した
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4つ目のカレンダー設定が、次の一手を持ち続ける習慣を作る。
次回(第0章・話20)では、「この連載を読んだその日に必ず設定すべきカレンダー予定3つ」を解説する。即日カレンダー登録することで、読んだ内容が確実に実行される仕組みを作る。
問題が起きたとき、固まるか動くか。その差を生むのは、「次の一手」を持つ習慣だ。


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