事前に知れば回避できる落とし穴
第0章・話22|はじめに
到達目標:創業初年度によくある5つの失敗パターンを理解し、自社に潜む兆候を発見する。 今日やること:5つのパターンのうち、自社に該当しそうなものを1つ特定し、予防策を決める。 必要ツール:紙とペン、創業計画書(あれば)。
創業初年度の失敗には、パターンがある。
多くの創業者が、同じ落とし穴に落ちる。同じタイミングで、同じ理由で、同じ結果を迎える。
でも、パターンがあるということは、事前に知っていれば回避できるということだ。
今回は、創業初年度に最も多い失敗パターンTOP5を解説する。
このうち1つでも自社に該当する兆候があれば、今週中に予防策を打つ。そうすれば、同じ失敗を繰り返さずに済む。
失敗パターン1:初期資金を3ヶ月で使い切る
どういう失敗か
創業時に用意した資金を、想定の3倍の速度で使い切ってしまう失敗だ。
例:
- 自己資金500万円で創業
- 「1年は持つ」と思っていた
- 実際には3ヶ月で300万円が消えた
- 残り200万円、ランウェイ2ヶ月
なぜこんなことが起きるのか。
なぜ起きるのか
理由1:初期費用を甘く見積もっている
登記費用、印鑑代、銀行口座開設手数料、名刺、ウェブサイト、広告費、初回仕入れ。
「だいたい100万円あれば足りる」と思っていたが、実際には150万円かかった。50万円のズレだ。
理由2:固定費を把握していない
月次の固定費が50万円だと思っていたが、実際には80万円だった。家賃、通信費、ツール費、税金。細かい固定費を見落としていた。
理由3:売上の立ち上がりが遅い
「初月から月商50万円は行ける」と思っていたが、実際には初月の売上はゼロ。2ヶ月目に初回売上10万円。3ヶ月目に30万円。
売上の立ち上がりは、常に計画より遅い。
どう回避するか
予防策1:初期費用を1.5倍で見積もる
「100万円かかる」と思ったら、150万円で計画する。必ず予想外の支出が発生する。
予防策2:固定費を創業前に確定させる
創業前に、固定費の一覧を作る。家賃、人件費、ツール費、税金、保険。すべて契約書ベースで確定させる。
予防策3:売上ゼロでも6ヶ月持つ資金を確保する
「1年持つ」計画なら、実際には6ヶ月で資金ショートする可能性がある。最低でも「売上ゼロで6ヶ月持つ資金」を用意する。
失敗パターン2:「とりあえず採用」で固定費が跳ね上がる
どういう失敗か
創業3ヶ月目、売上が少し立ち始めた。「人手が足りない」と感じて、正社員を1名採用する。
月給30万円。社会保険料を含めると、固定費が月35万円増える。
でも売上は計画通りに伸びない。採用した人材の立ち上がりも遅い。気づけば、固定費だけが増えて、売上は変わらない。
4ヶ月後、資金が尽きる。
なぜ起きるのか
理由1:「人がいれば伸びる」という錯覚
人手不足を感じると、「人を増やせば売上が伸びる」と思ってしまう。でも実際には、人を増やしても売上が伸びるとは限らない。
売上を伸ばすには、顧客開拓・商品改善・マーケティング改善が必要だ。人を増やすだけでは解決しない。
理由2:固定費増加の影響を計算していない
月給30万円の人を採用すると、ランウェイがどう変わるか。
- 採用前:現預金300万円、月次バーン50万円、ランウェイ6ヶ月
- 採用後:現預金300万円、月次バーン85万円、ランウェイ3.5ヶ月
ランウェイが半分になる。この計算をせずに採用すると、数ヶ月で資金ショートする。
どう回避するか
予防策1:採用前にランウェイ変化を計算する
採用した場合のランウェイを計算する。ランウェイが3ヶ月を切るなら、採用を延期するか、先に調達する。
予防策2:正社員ではなく外注・業務委託から始める
売上が安定するまでは、固定費を増やさない。外注・業務委託なら、案件がない月は費用が発生しない。
予防策3:採用ROIを設定する
「この人材は、何ヶ月で投資を回収できるか」を計算する。
例:月給30万円の営業を採用。月間受注目標50万円。粗利率40%なら、粗利20万円。回収には1.5ヶ月。
この計算ができないなら、採用すべきではない。
失敗パターン3:大口顧客に依存して、失注で資金ショート
どういう失敗か
創業6ヶ月目、ようやく大口顧客を獲得した。月50万円の契約。この顧客のおかげで、月次黒字になった。
でも3ヶ月後、この顧客が契約を打ち切った。
売上の60%を失った。月次バーンが一気に悪化した。ランウェイが2ヶ月になった。
なぜ起きるのか
理由1:顧客分散ができていない
創業初年度は、大口顧客を1社獲得することに集中しがちだ。でも1社に依存すると、その1社を失ったときに会社が傾く。
理由2:リスク登録票がない
「大口顧客を失うリスク」をリスク登録票に登録していれば、対処を事前に考えられた。でもリスク登録票がなければ、失注してから慌てる。
どう回避するか
予防策1:売上の30%ルールを守る
1社の売上が全体の30%を超えないようにする。超えそうなら、他の顧客開拓を優先する。
予防策2:大口顧客獲得時に、リスク登録票に登録する
大口顧客を獲得したら、その日に「この顧客を失うリスク」をリスク登録票に登録する。対処内容に「他の顧客を3社開拓する」と書く。
予防策3:契約更新の2ヶ月前に確認する
大口顧客の契約更新日を13週CFに記録する。更新の2ヶ月前に、顧客に継続意思を確認する。もし打ち切られても、2ヶ月の準備期間がある。
失敗パターン4:「いつか黒字になる」と信じて赤字を放置
どういう失敗か
創業から8ヶ月、毎月赤字が続いている。月次バーン80万円、売上50万円、赤字30万円。
でも「売上は伸びている」「いつか黒字になる」と信じて、何も変えない。
12ヶ月目、資金が尽きた。
なぜ起きるのか
理由1:赤字の原因を分析していない
赤字には、必ず原因がある。売上が低いのか、粗利率が低いのか、固定費が高いのか。
原因を分析せずに「いつか黒字になる」と信じるのは、ギャンブルだ。
理由2:損益分岐点を計算していない
「月商いくらで黒字になるか」を計算していない。
例:
- 固定費:60万円
- 粗利率:40%
- 損益分岐点売上:60万円 ÷ 40% = 150万円
今の月商が50万円なら、あと100万円必要。この100万円をどう作るかの計画がなければ、黒字にならない。
どう回避するか
予防策1:損益分岐点を計算する
固定費 ÷ 粗利率 = 損益分岐点売上
この計算をして、「月商いくらで黒字になるか」を明確にする。
予防策2:3ヶ月連続赤字なら、構造を変える
3ヶ月連続で赤字なら、何かを変える。固定費を削る、価格を上げる、商品を変える、チャネルを変える。
「様子を見る」は、資金を消費するだけだ。
予防策3:月次レビューで赤字の原因を記録する
月次レビューの議題1「CF予実差異の確認」で、赤字の原因を1文で記録する。
例:「粗利率が計画30%に対して実績25%。仕入れ価格が想定より高いため」
原因がわかれば、対処が決まる。
失敗パターン5:調達のタイミングを逃して資金ショート
どういう失敗か
ランウェイが2ヶ月になってから、調達を検討し始める。
JFCに相談したが、審査に1ヶ月かかると言われた。VCに営業したが、返事に2週間かかった。
調達が間に合わず、資金が尽きた。
なぜ起きるのか
理由1:調達には時間がかかることを知らない
JFC:申請から融資実行まで1〜2ヶ月 エンジェル:交渉から入金まで2週間〜1ヶ月 VC:初回面談から入金まで2〜3ヶ月
調達には時間がかかる。ランウェイが2ヶ月になってから動き出すと、間に合わない。
理由2:ランウェイを計算していない
ランウェイを計算していなければ、「いつまでに調達すべきか」がわからない。気づいたときには手遅れになっている。
どう回避するか
予防策1:ランウェイが6ヶ月を切ったら調達を検討する
ランウェイ6ヶ月 = 調達検討開始のトリガー ランウェイ4ヶ月 = 調達実行のデッドライン ランウェイ2ヶ月 = すでに手遅れ
6ヶ月を切ったら、JFCのウェブサイトを確認する。4ヶ月を切ったら、申請を開始する。
予防策2:創業3ヶ月目にJFCに相談しておく
資金に余裕があるうちに、JFCに相談しておく。「今は必要ないが、将来申請する可能性がある」と伝えるだけでいい。
関係を作っておけば、実際に申請するときがスムーズになる。
予防策3:13週CFに調達予定を記録する
「8週目にJFC申請」「12週目に融資実行(予定)」と13週CFに記録する。調達を計画の中に組み込む。
5つのパターン診断チェックリスト
自社に該当しそうなパターンをチェックする。
□ パターン1:初期資金を想定より速く使っている
□ パターン2:「とりあえず採用」を検討している
□ パターン3:売上の50%以上が1社に依存している
□ パターン4:3ヶ月連続で赤字だが何も変えていない
□ パターン5:ランウェイが4ヶ月を切っているが調達していない
1つでもチェックが入ったら、今週中に予防策を実行する。
今日やること(チェックリスト)
□ 5つのパターン診断を行い、該当するものをチェックした
□ 該当したパターンの「予防策」を読んだ
□ 予防策のうち、今週中に実行できるものを1つ選んだ
□ その予防策を実行する時間を、カレンダーにブロックした
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4つ目のカレンダー設定が、予防を確実にする。
次回(第0章・話23)では、「スタートアップの『寿命』を決める要因は何か」を解説する。資金・人材・市場の三角形の中で、どれが最も寿命を左右するのか。長生きする会社の条件を明らかにする。
失敗パターンは、事前に知っていれば回避できる。知ることが、回避の第一歩だ。


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